Dear-Abbadoのブログ

折々の雑感を綴っていきます。

「PLAN75」を観て

6月から上映されていたのをまったく知らず、今月になって初めて「PLAN75」という映画を観ました。ある方のブログで触れられていて知ったのですが、再上映の最終週に滑り込みセーフで観ることができました。

最初は平日の午後に半日休みをとって新宿ピカデリーで。二回目は今日、田端にあるシネマチュプキタバタというミニシアターで観賞しました。あまりに素晴らしかったので、二回にわたって観たのです。

75歳になると生きるか死ぬかを選択できるようになった近未来の日本が舞台。いっそうの高齢化が進み、若者が老人を襲う事件のシーンから始まっていきます。

2時間弱の作品で、重たいテーマが扱われているのですが、まったくダレることなく、最後まで緻密に構成されている点、まず見事だと思いました。

そして、俳優陣がまた素晴らしいのです。主人公の78歳、角谷ミチを演じる倍賞千恵子さんは、すべての所作がありのままを感じさせるように自然。老いた一人暮らしの果てに、PLAN75の申し込みへと揺れ動いていく姿に切なさが滲み出ています。けれど凛としていて、最後まで美しいのです。倍賞さんだからこそ、内容の重苦しさの中にも、ある種の爽やかさが醸し出された気がします。

役所の担当スタッフ役の磯村勇斗さんもとても上手い。特にセリフ回しが役にしっくり馴染んでいるように感じました。叔父との触れ合いをきっかけに、PLAN75の業務をこなしつつも、どこかやりきれなさを隠せない不安定感を演じきっています。

受け入れ施設で働くスタッフ役のステファニー・アリアンさん、ミチの女友達、ミチの担当スタッフを演じる河合優実さんなど、みな役者のレベルが高いです。

音楽もとっても良かったです。絶妙なタイミングで、作品をまったく邪魔せず、まさに湧き出るように流れる美しい音楽でした。

曖昧さを含んだまま映画は終わるのですが、ワンシーン、ワンシーンが、いちいち美しく、シリアスな内容ではあるものの、お涙ちょうだいにはまったくならずに、静かな波紋と余韻を残します。ちょっとフランス映画っぽい雰囲気を持つ邦画です(日本、フランス、フィリピン、カタールの合作とのこと)。

ここ数年で観た映画の中でいちばん素晴らしい作品でした。傑作です。

こんな未来は想像したくないですが、いつかは誰もが老いるし、僕もいつの日か高齢者になる日が来ることを思う一方で、社会全体がうまく機能して年齢問わず誰もが満足して暮らせるようになるには何が必要なのか、難しい問いを投げかけられた気がしました。

脚本・監督の早川千絵さんはこれからもっと大きく才能が開花しそうで、楽しみです。

またお会いしましょう。