Dear-Abbadoのブログ

折々の雑感を綴っていきます。

織田作之助の小説世界

今年の4月と7月に大阪へ旅行したことをきっかけに、大阪ゆかりの作家ということで織田作之助を二冊読んだ。

講談社文芸文庫の「世相・競馬」、そして岩波文庫の「六白金星・可能性の文学 他十一篇」。2篇のみ重複しているものの、どちらもオダサクの世界に浸るには好適。代表作と言われている「夫婦善哉」は映画を観ただけで原作はまだ読めていないが、映画の内容から考えると上記2冊に収められている妾モノの短編とその世界観は似ていて、彼の文学に触れるには、短編集から入るのでも、「夫婦善哉」から読むのでも、どちらでもよいような気がする。

伝説的な棋士坂田三吉の老いを描く「聴雨」(講談社文芸文庫所収)など、僕は将棋のことは知らないけれども、なんとも言えないペーソスが漂い、絶品と感じ入った。

ちなみに、映画の「夫婦善哉」は森繁久彌の自然な演技が見ものだし、大阪へ行ったときに、作中に登場する自由軒で名物のカレーを食べてもの思いに耽るのもよいと思う。

大阪に暮らす庶民や下層民の悲哀や人情絵巻が、実際の場所・地名(生國魂神社、法善寺、道頓堀、船場など)や歴史的事件(関東大震災満州事変、大阪大空襲など)を背景に、リアルな大阪弁とともに眼前に立ち現われるその鮮やかさ。オダサクの小説世界に浸る愉しみはそこにある。そして、寄席の名人芸を聞くような淀みない文体。文体はちょっと町田康と似ている気がする。作品のいくつかが彼の実人生が反映された私小説だからかもしれないが、古き良き大阪の息吹が感じられるし、現代でも漂い続ける大阪特有の匂いも嗅ぎとれる。

織田作之助は、なんと33歳没。昔の作家は本当に若くして亡くなる人が多かったんだなぁ。