Dear-Abbadoのブログ

折々の雑感を綴っていきます。

蒲田駅前のタイ女性

少し前の週末日曜日、蒲田で用事を済ませた後、少し疲れたのもあってルノアールに入った。

二階にある店舗の窓際に座り、冷たい飲み物を頼んで何するでもなくぼぉっとしていると、窓の下に、外国人とおぼしき若い女性がしきりに通行人へ声をかけているのが目に入った。来る人来る人に、ほとんど手当たり次第と言ってもいいくらいに、声をかけ、呼び止めている。

呼び止められた人たちは、とりあえず立ち止まる人、無視して足早に過ぎる人、話を聞いた後で手をひらひらと振って立ち去る人、自分だけでなく近くにいる仲間も呼び寄せて一緒に聞き入る人、自分は興味を持った風だったが連れに諭されて去って行く人など、さまざまだった。

その女性は、立ち止まってくれた人に小さなノートのようなものを開いて見せている。書き込まれているメッセージを見ての反応は3パターンに分かれていた。はっきりと拒絶の意志を示して去る人、申し訳なさそうに頭を下げる人、同情しているように見える人。同情組は財布からいくばくかのお金を出して女性に渡している。小銭でなくお札を与える人もいた。女性はお金を受けとると、お礼にお菓子のようなものを差し出して、善意の人々に深々と頭を下げていた。

何か理由はよく分からないが、一人でずっと募金を続けているのだ。道行く人たちの反応と、その女性の精力的な募金活動を眺めるのが面白く、僕はルノアールの大きな窓ガラスで切り取られた地上のその光景を飽きずに観察していた。

顔つきからその女性が日本人でないことは分かったし、日本人であれば、あんなにも熱心に自分から声をかけに行くような募金の仕方はしないだろうとも思った。どんな理由でやっているのか気になったので、店を出たら僕も声をかけられてみようと考え、会計を済ませて地上に下りた。

女性はやや疲れたように立ちすくんでいたが、僕がわざとらしく前を通ると案の定、声をかけてきた。片言の日本語とともに例のノートが開かれ、見ると、「コロナでアルバイトがなくなりました。生活に困っています」という主旨の手書きメッセージがあった。どこの出身か聞くと、タイだという。学生で、学校は八王子にあるということだった。とりあえず僕も数百円だけ寄付をし、紋切り型の激励の言葉をかけてその場を去った。

そのタイ女性が本当に新型コロナ蔓延の余波で職を失ったかどうかは分からない。八王子に学校があって、なぜ蒲田で募金活動をしているのかもよく分からないが、近くに住んでいるということなのだろう。

女性は募ったお金を大切そうにバッグにしまっていたが、僕が観察していた小一時間だけでも少なくない人たちが募金に応じていて、下手なバイトの時給より、集金効率はかなり上だと思われた。

妙に屈託ない笑顔と人慣れた雰囲気、募金の巧さ。不謹慎かもしれないが、一種の詐欺かもしれないとは思った。困っているわりにはお礼の品を用意できる余裕があったり、悲壮感が微塵も感じられなかったりしたことも、僕に疑念を生じさせる種になった。それ以来、そのタイ女性は見ていない。

アルバイト解雇などで彼女よりも金銭的に深刻になり、しかし彼女のように募金活動をするような知恵も勇気もない留学生はたくさんいるはずだ。彼らがまたバイトを再開できて生活が楽になるよう祈っているし、例のタイ女性も、再び駅前で募金などしないですむようになればいいと思う。