クラシックが好きな人の中には、例えばモーツァルトのピアノ協奏曲全集やブルックナーの交響曲全集、プロコフィエフのピアノソナタ全集など、あるジャンルの全集盤CDやレコードを買い集めて聴き比べる喜びを知っている人も多いと思う。
いまはただでさえCDが安いけれど、全集盤で買えばさらに一枚あたりの価格が下がるので、ちょこちょこ買っていくうちに自室のスペースをディスクがどんどん食っていくことにはなる。でも、全集盤を買うことには費用面以外にもメリットがあるのだ。
昨年タワーレコードで買った全集の一つに、ブロムシュテット指揮/ドレスデン・シュターツカペレによるシューベルトの交響曲全集がある。正直、未完成とグレートしか聴いたことがなく、その他のシューベルトの交響曲なんて大したことないだろうとたかをくくっていた。
が、5番の冒頭で爽やかな管の響きを耳にした瞬間、この愛らしい交響曲の世界にすっかり引き込まれてしまった。なんとシューベルト19歳のときの作品ということで、天才と言う他に言葉が見つからない。旋律は明るく伸びやかに流れ、響きは軽く弾み、完成され切っていないがゆえの素朴な楽しさ、深刻ぶらないからこそ生きてくる音楽の力に溢れていて、僕はこの交響曲第5番がとても好きになった。
先にも書いたが、シューベルトの交響曲といったら未完成とグレートの知名度ばかりが突出していて、その他はほぼ陽の目を見ていないといっても言い過ぎではない。全集盤を買わなければ僕も5番という名曲に出会うことはなかった。
どんな作曲家のどんなジャンルであっても、食わず嫌いをせず、とりあえず全集盤を買ってきて一つ一つじっくり聴いていけば、必ずや素晴らしい出会いがある。作曲家がどんな風にスタイルを変化させていったかを知るため、また作曲家の音楽を体系的に理解するためにも、まずは全集盤を買って聴くことが近道になると思う。